「なぜ、円安にならなかったのか?」高市自民の歴史的圧勝を受け、誰もが“円安一直線”を想定していました。しかし相場は逆に動きます。週明け、為替は大きく円高へ振れながら、株価は過去最高値を更新。市場のコンセンサスとは真逆の展開となりました。この一見ちぐはぐな動きは偶然だったのでしょうか。それとも、計算された着地だったのでしょうか。
そこに浮かび上がるのが、片山財務大臣の存在です。ベッセント財務長官との緊密な協調、矢継ぎ早の市場けん制、そしてレートチェックや口先介入を通じて意識づけられた160円という明確な“見えない壁”。円安を抑えつつ株高を維持するという難しいバランスは、単なる市場の気まぐれではなく、外交と政策の積み重ねによって形づくられた可能性があります。
本稿では、この円高・株高をどのように導いたのか、その舞台裏を読み解いていきます。
🗳️歴史的圧勝と市場の事前コンセンサス
2026年2月11日現在。2月8日に投開票された衆院選で、高市早苗首相率いる自民党は316議席を獲得し、衆議院定数465のうち単独で3分の2を超えるという歴史的圧勝を収めました。憲法改正発議や参院否決法案の再可決が可能となり、政権基盤は戦後でも例のないほど強固なものとなっています。
選挙前、市場のコンセンサスは極めて明確でした。「高市圧勝=株高・円安・債券安」。積極財政の実行しやすさ、消費税減税(とくに飲食料品ゼロ)の可能性、日銀の利上げに対する慎重姿勢などが重なれば、財政拡張懸念から円は売られやすいと考えられていたからです。いわゆる「高市トレード」の再燃が想定されていました。
📊予想を裏切った市場の初動
ところが、実際の市場はその予想を裏切ります。日経平均は5万5000円台を楽々突破し、5万7650円前後まで上昇、史上最高値を更新。一方でドル円は157円台後半から154円台前半へと下落し、約3〜4円の円高が進行しました。10日の米小売売上高が予想を下回り(前月比0%横ばい、予想0.4%増)、米消費失速懸念でドル安が進みました。
中国当局が米国債保有抑制を指導した報道もドル売り(人民元高)を誘発し、円にも波及。米金利低下観測(早期利下げ再燃?)が補助的に効いています。結果として現れたのは「株高+円高(少なくとも円安ストップ)」という、事前予想とは逆の組み合わせでした。
なぜ円安は加速しなかったのか。その背景を時系列で整理すると、複数の要因が重なっていることが見えてきます。
💱投機筋の巻き戻しが生んだ円高
まず最大の短期要因は、投機筋の円売りポジションの巻き戻しです。選挙前、海外の短期筋は「高市圧勝=円安」と見て円売りポジションを積み上げていました。しかしCFTCのIMM統計では、2月3日終了週時点で円のネットショートは約1万9000枚水準まで縮小し、前週比で1万4000枚超減少したと報じられています。想定以上の圧勝で材料出尽くしとなり、積み上がっていた円売りが一気に解消されたことが、円高の直接的なドライバーとなりました。
外為どっとコムや野村證券などの分析では、「選挙で与党圧勝も当局牽制で乱高下」「投機筋の円売りポジションを手じまう動きが進んだ」「売り越し幅縮小で円高方向への巻き戻しが起こりやすい」と指摘。選挙前から円安期待でポジションを積み上げていたが、圧勝が「想定以上」すぎて過熱。財政拡張期待がピークアウトし、「財政は意外に慎重(赤字国債依存を避け、財源確保を重視)」との見方が広がったため、円売り継続のインセンティブが薄れた。
🚧160円という事実上の上限
次に重要なのが、160円という明確な天井の存在です。1月23日には日米協調によるレートチェックが行われ、159円台後半から152円台まで急落した実績があります。
三村財務官の「高い緊張感をもって注視」、片山財務相の「必要なら月曜日も対話」、木原官房長官の「急激な動きを憂慮」といった発言が続き、市場には「160円超えは危険水域」という共通認識が形成されました。実弾介入が行われなくとも、その可能性自体が強い抑止力として働いています。
🤝片山×ベッセント協調の構図
そして今回の相場で中核にあると考えられるのが、片山財務相と米ベッセント財務長官との協調です。両者は2025年9月の共同声明を基盤に複数回会談を重ね、「過度な為替変動は望ましくない」との認識を共有してきました。トランプ政権はドル高、すなわち過度な円安を歓迎していません。
円安が進めば米国の貿易赤字問題に直結し、さらに日本の財政悪化や長期金利上昇が米国債市場へ波及するリスクも米側は警戒しています。つまり、160円超えは日米双方にとって望ましい水準ではないという暗黙の合意が存在していると見ることができます。
高市首相の「外為特会ホクホク」発言が円安容認と受け取られかねなかった場面でも、片山財務相が迅速にフォローし、財政拡張懸念を抑えました。為替がコントロールされているという印象は、こうした連携の積み重ねによって生まれています。
🌎米ドル要因と外部環境
さらに、米ドル側の要因も重なりました。米小売売上高が予想を下回り、米消費の減速懸念が広がったことで、米金利低下観測とともにドル売りが進行しました。加えて、トランプ大統領はドル高(=円安)を貿易赤字拡大の一因と見ており、日本に対するけん制姿勢を崩していません。
過去の関税強化やドル安志向の発言からも、過度な円安は米側の不満を招きやすい構図があります。高市政権の積極財政(消費税減税など)が円安を助長するとの懸念がある中で、日米当局の暗黙の協調(レートチェックを含む)が機能しやすい環境にありました。トランプ政権下で日本への「円安容認」は限定的で、むしろ日本の財政悪化や長期金利上昇が米国債市場に波及することを警戒する声も出ています。
結果として、160円近辺では米側からもブレーキがかかりやすく、日米金利差が残る中でも政治的・外交的な上限が意識される状況となっています。こうしたドル安の流れが、円高を補助する形となったのです。
📈なぜ株高は続いているのか
一方で、株価はなぜここまで強いのか。その理由は比較的明確です。自民党が単独で3分の2超を確保したことで、政策実行力が飛躍的に向上しました。AI、半導体、防衛、造船など「戦略17分野」への投資加速期待が広がり、海外投資家は日本株を評価しています。JPモルガンは3カ月で10兆円規模の海外資金流入の可能性を示唆しており、政策の持続性がプレミアムとして織り込まれています。
歴史的にも、自民党が圧勝した2005年の郵政選挙や2012年の総選挙後には株高が続きました。政策不透明感の解消は、それ自体が買い材料となります。加えて、高市政権の財政姿勢が「意外に現実的」であったことも見逃せません。消費税減税については赤字国債依存を避け、2年分の財源確保を明言し、夏前に中間取りまとめを行うとしました。
圧勝によって大胆な政策実行が可能になった一方で、財政規律への配慮も示されたことで、過度な円売り継続のインセンティブが弱まりました。
🌍オルカンと日本株の中長期シナリオ
さらに中長期では、MSCI ACWI(いわゆるオルカン)における日本株比率の上昇も現実的なシナリオとして浮上します。2025年以降、日経平均がMSCI ACWIやS&P500を上回る場面が増え、日本株のパフォーマンス優位が意識されています。
企業ガバナンス改革や株主還元強化、AI・半導体・防衛関連への成長期待を背景に、日本株の時価総額シェアは世界の中で拡大傾向にあります。MSCIは浮動株時価総額を基準に定期的にウェイトを調整するため、ROE向上や自社株買いによって浮動株価値が高まれば、日本株の比率は自然に引き上げられます。現在はおおむね5〜6%前後とされますが、株高が続けば7%超えも視野に入ります。
加えて、新NISAを通じたオルカン人気によりパッシブ資金の流入が膨らめば、指数リバランスを通じて自動的に日本株へ資金が配分される構図が強まり、株高→時価総額拡大→ウェイト上昇という好循環が生まれる可能性があります。
2026年には日経平均6万円超を想定する見方もあり、そうなればオルカン内での日本株の存在感は一段と高まることになります。
🔮今後の焦点とレンジ観測
今後の焦点は、米雇用統計やCPI、3月の日銀会合、日米首脳会談、そして消費税減税の具体化です。為替は当面153〜157円台を中心に推移し、160円は政治的・介入的な上限として意識されやすい状況が続きそうです。日米金利差という構造的な円安要因は残る一方、日米協調や介入警戒が極端な円安再燃を抑える構図にあります。
今後は特別国会や2026年度予算審議で財源確保の具体策が示されるかが鍵となり、消費税減税の規模や手法次第では長期金利や為替が敏感に反応するでしょう。財政規律への信認が維持されれば円高圧力が続く可能性もありますが、議論の過程では1日で1〜2円動く場面も想定されます。
株価は政策期待で底堅いものの、ヘッドライン次第で変動は大きくなりやすく、しばらくは神経質で不安定な相場が続くでしょう。
🧭想定外ではなく設計された着地か
当初の市場予想であった「高市圧勝=円安加速」は、投機筋の撤退、160円という明確な天井の意識、日米当局の協調、そして財政の現実路線という複合要因によって覆されました。結果として生まれたのは、円安は抑えられ、株高は維持されるという「悪いことなし」の着地です。
160円近辺は事実上の上限として機能し、介入警戒と日米協調の枠組みの中で投機筋が円売りを再構築しにくい環境が続いています。一方で、自民党が衆院3分の2超を確保したことによる政策実行力プレミアムは健在で、海外投資家の日本株買いは継続。円高局面でも輸出企業の収益環境はなおプラス圏にあり、リスクオンの地合いは崩れていません。
そこに片山財務相の外交手腕、すなわち米国との緊密な調整と市場への的確なけん制が光ったと見る向きは少なくありません。高市政権の「責任ある積極財政」を為替面で守り抜いた結果、市場は荒れることなく落ち着いた。今後は日銀3月会合や消費税減税の具体化が焦点となりますが、この協調枠組みが続く限り、極端な円安再燃は抑えられる可能性が高いでしょう。
全体としては、設計されたかのようなソフトランディングが実現していると評価できます。皆さんは、この相場をどこまで予測できていたでしょうか。









