高市総理の台湾有事をめぐる発言をきっかけに、日中関係や安全保障をめぐる議論が一気にヒートアップしています。しかし、その多くが「存立危機事態」という仕組みを正しく理解しないまま、感情論やイメージだけが先行しているように見えます。
メディアは視聴率やクリック数を優先して都合の良い一文のみを切り取り、SNSでは法律や運用を知らないまま過激な言葉が独り歩きしています。
その一方で、中国のSNS空間では、日本側の誤解と混乱がプロパガンダ材料として利用されている状況すらうかがえます。なぜここまで認識がズレるのか?まずは、この議論の出発点から丁寧に整理していきたいと思います。
😥どのような経緯で高市総理の発言が引き出されたのか
高市総理の発言は、いきなり勝手に飛び出した「暴走発言」ではありません。衆議院予算委員会で、立憲民主党の岡田克也氏が、中国による台湾封鎖を想定した質問を投げかけたところから始まっています。ポイントは、質疑があくまで「想定問答」であり、何度も繰り返ししつこく質問したことです。
それに対して高市総理は、
戦艦を使い、武力行使も伴うものであれば、どう考えても存立危機事態になりうる“ケース”だと考える。ただし、最終的には実際に発生した事態の個別具体的な状況に応じて、政府が全ての情報を総合して判断する。
という趣旨の答弁を行いました。ここで重要なのは、
- 「どう考えても」という強い言葉と
- 「なりうるケース」、「個別具体的に総合判断」というブレーキ
がセットになっていることです。
ところが、メディア報道では「どう考えても存立危機事態」という一文だけが切り取られ、「台湾有事=日本参戦を明言」、「台湾防衛で集団的自衛権発動を宣言」といった見出しに変換されてしまいました。質疑の前後を知らない視聴者・読者から見れば、「高市総理が急に強硬発言をした」と見えてしまいます。
🤔存立危機事態とは何なのか?
そもそも議論の土台となる「存立危機事態」とは、2015年の安保法制で新設された概念です。これは、いわゆる「限定的な集団的自衛権」を発動するための、非常にハードルの高い条件セットだと理解すべきです。
存立危機事態の法律上の定義は、
我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態であって、他に適当な手段がないと認められるものをいう。【武力攻撃事態法 第2条第1号(原文)】
ということになります。ここでクリティカルなのは次の三点です。
- 日本と密接な関係にある他国への武力攻撃であること。
- 日本や日本人に大きな影響があること。
- 他に手段がないこと。
2と3は状況次第で広く解釈され得ますが、1の「密接な関係にある他国」に該当するのは、現実的には日米安保条約に基づく同盟国であるアメリカのみと整理するのが合理的です。
この枠組みから分かるように、あくまで軸は「米軍が攻撃されるかどうか、その結果、日本の存立がどうなるか」です。つまり、「台湾を救うために自衛隊が出て行く」という発想そのものが、法制度の設計からズレています。
🙄実際の運用と「台湾を守る」という誤解
では、実際に存立危機事態が認定され、自衛隊が動くとしたら、何をどこまでやるのかという話になります。ここを具体的にイメージしないまま、「台湾を守るために日本が参戦」、「日本が前線で戦う」などと煽る議論が、SNSを中心に溢れています。
現実的な運用を想定すると「日本の周りを守りながら、後方から米軍を支える」というのが基本線です。台湾本島に自衛隊が上陸して地上戦を行う、台湾上空で自衛隊機が主力として空戦を行う、といった絵は、現行法制の範囲でも、日米の共同シミュレーションでも想定されていません。
それにもかかわらず、
- 「台湾を守るために日本が血を流すことになる」
- 「高市政権が台湾を同盟国に格上げした」
- 「日本が軽率な発言をしたから中国に攻撃される」
といった論調が、法的根拠を伴わないまま拡散しています。ここには、存立危機事態の条文も、自衛隊の任務も、日米安保の実務もほとんど読まれていないという根本的な問題があります。
一方で、中国共産党にとっては、日本国内のこの混乱ぶりこそが格好の材料です。日本のメディアとSNSが法的な前提を共有しないまま騒げば騒ぐほど、中国側から見れば「相手の情報空間を揺さぶるチャンス」が増える構図になっているわけです。
😁まとめ:存立危機事態を周知する良い機会
今回の議論は、存立危機事態の本質を広く周知するための良い機会であると感じます。本来であれば、政府やメディアこそが率先して制度の仕組みと運用を丁寧に説明すべきであり、無知のまま騒ぎ立てることほどみっともないことはありません。この程度の情報は、誰でも簡単に調べることができます。
無知な人々を扇動・誘導し、支配することは非常に容易であり、プロパガンダや世論操作が働きやすい土壌となります。だからこそ、私たちは正しい情報で武装し、情報戦の時代を優位に進める姿勢を持つことが欠かせません。
法律も運用も知らないまま、切り取りと感情論だけで騒いでいては、日本を利用したい他国にとって都合の良い宣伝材料を提供し続けるだけになってしまいます。そんな情報環境こそが、日本にとって本当の意味での「安全保障上のリスク」になりつつあります。
皆さんは、誤った情報に踊らされていませんか?




